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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

31「あんたくらいに賢かったら、価格競争でも生き残るんじゃないのか」「賢いから文書偽造なんてハイリスク・ローリターンの仕事には食指が動かないんですよ」「じゃあ、そういう仕事に手を出しそうな知り合いに心当たりはないか」「ムショでは気の許せる人間がほとんどいませんでしたから。前にも言ったでしょ。わたしが友人を選ぶ基準は一にも二にも真面目なヤツだって」「友人になりたいというのはビジネスパートナーになりたいのと同義だとも言っていたな」「都合の悪いことまで、まあ記憶力のいい刑事さんだなあ」 五代は感心したように言うと、恭しくドアの方を指し示す。「申し訳ありませんが、わたしがお話しできるのはこのくらいです。どうぞお引き取りを」 単なる事情聴取では退去を命じられたら従わない訳にはいかない。「また来る」「来ないでください。ビジネス以外のお話は何の得にもなりませんので」 慇いん懃ぎ ん無ぶ礼れいとまではいかないが、床に唾を吐きたくなる程度には腹の立つ応対だった。笘篠は唾を溜めたい欲求を堪えてドアに向かう。「お疲れ様でした」 はっきりと揶揄する言葉に送られて事務所を出る。 クルマに戻ってくると、蓮田の癇かん癪しゃくが爆は ぜた。「あの野郎、人を見下しやがって」「見下しても逆襲されないと見越しているんだ」