ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

32 三 売る者と買う者「笘篠さんの心証はクロですか」「まだ何とも言えん。ただ、さっきの口ぶりだと代書屋に知り合いは多そうだな。行方不明者の個人情報さえ入手できれば、偽造を代書屋に委託してマージンを取るという手もある」「五代を張りますか」「張る前に鬼河内珠美と真希竜弥が五代と接触した裏を取らなきゃならん。裏付けがなければ捜査本部もうんと言うまい」 警告じみた物言いは自分自身に対してのものでもある。確かに五代は怪しいが、死んだ二人との接点を見つけられなければただの見込み捜査になる。捜査対象がヤクザ者である点も目を曇らせる原因になりかねない。「隙がなさそうな相手ですからね。仮に五代が住民票の偽造を請け負っていたとして、注文主との接触跡を迂闊に残しておきますかね」「それなら別の方向から探る。名簿屋の情報元は役所か金融機関と相場が決まっている。行方不明者の情報を抱えている部署と五代が接触している事実を?めば突破口になる」 納得したように蓮田は頷き、イグニッションキーを回す。 だが笘篠はまだ充分に納得していなかった。