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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

4 三 売る者と買う者「宮城県警の笘篠と蓮田です」「これはこれはお勤めご苦労様です」 二人を居間に迎えたものの、久谷は妻が出掛けているのを理由にもてなしらしいことをする気配がない。 居間には町議会議員の当選証書が額装されて並んでいる。笘篠は客を招き入れる場所に己の功績を誇示する人間をあまり好きになれない。「真希竜弥くんの件でしたな。警察の人が二人も来たということは、また彼が何か仕出かしましたか」 笘篠は久谷の表情をじっと観察する。もしこちらを揶や揄ゆするような色が一瞬でも浮かべば、真希の末路を承知している可能性がある。「真希は死にました」 笘篠が告げると、久谷は俄に目を細くして遠くを眺めるような顔をした。「そりゃあ本当かね」 何人もの人間に事情聴取をしてきた甲斐があり、相手が詐欺の常習犯でない限り反応一つで?を吐いているかどうかくらいの見当はつく。久谷が演技をしているようには到底思えなかった。「六月二十日、富沢公園で死体で発見されました」「殺されたのかね」「どうして、そう思われるのですか」「少なくとも自殺するような男には見えなかったからね」