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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

5「久谷さんは出所後の真希の面倒を見ていたんですよね。本日お伺いしたのは、当時の状況を知りたかったからです」「出所直後の真希くんの様子を知りたいのは、まだ犯人の目処が立っていないということかな」 目の奥に猜さい疑ぎ 心が見え隠れする。どうやら犯人云々よりも、己が事件に結びつけられるのを警戒しているようだ。「言っておくが、わたしは富沢公園なんかに行ったことはない」「何も久谷さんを疑っている訳ではありません。わたしたちはとにかく真希竜弥の交友関係を知りたい一念でしてね。真希は再犯だったことも手伝い九年の懲役を食らいました。九年も刑務所で暮らしていると、塀の外側の知り合いが少なくなるものです」「ああ、そういう傾向はあるな」 久谷は訳知り顔で頷く。「今までにも何人か世話してきたが、最初は皆おっかなびっくりの体ていでね。テレビが薄型になったり、ケータイの代わりにスマホが出てきたり、世の中の変化についていけんらしい。塀の内と外では流れている時間が違うのかもしれん」「まるで浦島太郎ですね」「浦島太郎は言い得て妙だな。現状に適応できない有様は確かにお伽とぎ噺ばなしの住人だ。もっとも浦島太郎は善行から竜宮城でもてなしを受けるが、受刑者は悪行の果てに刑務所で仕置きを受ける。似て非なるものだ」 気の利いた皮肉とでも思ったのか、久谷は口元を綻ばせる。議員という仕事をした人間が全員