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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

6 三 売る者と買う者こうだとは思わないが、久谷は受刑者に対する配慮が希薄に過ぎる。数分話しただけだが、とても保護司の言葉とは思えない。聴取を笘篠に任せた蓮田も眉に嫌悪の色を漂わせている。 久谷が保護司の仕事を始めたのは七年前のことだ。ちょうど町議会議員選挙に敗れた頃であり、保護司のような公的なボランティア活動で票集めを画策しているのではないかと勘繰ってしまう。 たかが票集めというなかれ、一度当選の味を占めた者なら片手間のボランティア活動などお安い御用だろう。前科者の支援をするだけで数十票でも取り込めるのなら御の字だ。「真希の場合はどうでしたか」「彼もまた浦島太郎だったね。シャバで暮らすわたしですら九年というのは相当に長い。この間、中国が世界第二位の経済大国になり、日本と韓国が犬猿の仲になった。北朝鮮は金正日から金正恩に政権がわたった。日本では政権が代わり、そして……東日本大震災が起こった」 さすがに震災に言及する時には、声が一段落ちた。「刑事さんは震災時、どこにいたのかね」「捜査中でしたが県内にいましたよ」「なら宮城刑務所の中がどんな様子だったか関係者から聞いているかね」「生憎、刑務官の知り合いは多くありません」「刑務所というのは建物が元々頑丈にできていて、あの震災でもびくともしなかったそうだ。しかも水や食料品の備蓄はたんまりあるから塀の外ほどは日常生活に変化はない。毎日ではないが風呂にも入れる。囚人たちがパニックに陥らないよう、震災関係のニュースも視聴が限定されて