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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

7いたという話もある。家族と財産を流され、避難所生活を強いられている者にとっちゃあ刑務所の中はそれこそ竜宮城だっただろうさ」 久谷は憤ふん懣まん遣る方ないといった口調だった。当然の事ながら震災被害は富谷市にも及んでいる。一般市民が辛酸をなめているさ中、犯罪者が鉄砦の中でぬくぬくと生活していると知れば、はらわたが煮え繰り返るのかもしれない。何といっても刑務所は税金によって運営されているのだ。仮に久谷が票集めのために保護司を務めているとすれば、さぞかし複雑な心境だろうと想像する。「真希くんが出所して最初に驚いたのが、まだ震災被害の爪痕が残る町並みだったらしい。出所したのが二〇一五年の二月だったから、ようやく震災から四年経った頃で復興工事は道半ば、まるでよその国に来たみたいだと言っていた」 懲役を終えて帰ってみれば浦島太郎、というのは街の様変わりも指している。「いきなりよその国に迷い込んだんだから、以前の知り合いが訪ねてくることもない。二度目の逮捕ともなると以前の友人・知人は蜘蛛の子を散らすようにいなくなったと、本人も愚痴をこぼしていた」「出所後、真希は久谷さんのお宅に寝泊まりしていたんですか」「一週間だけはね」 久谷はそう言ってから忌いま々いましそうに鼻を鳴らす。「色々と骨を折ってやったんだが、一週間して出ていった」「その間、刑務所仲間が訪ねてくるようなことはなかったですか」