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概要

『護られなかった者たちへ』待望の続編! 東日本大震災によって引かれたさまざまな“境界線”が導く真実とは? 著者渾身の社会派ミステリー小説。

9「実際に紹介してみると骨身に染みる。ただの保護司じゃなく、元町議会議員の肩書をフルに利用しても、前科が強盗致傷ではどんな企業も挙げかけた手を引っ込める」 笘篠は意外な感に打たれる。いささか権力志向過多と思われる久谷だが、その肩書を出所者支援に役立てようというのなら見方は違ってくる。「思いつく企業二、三社に当たってみたが、結果は惨さん憺たんたるものだった。きっと本人も予想していたんだろう。わたしが面接を断られたと伝えても、さほど落胆する様子は見せなかった。それで彼はここを出ていった」「どこか行く当てでもあったのですかね」「それはどうかな。これ以上迷惑をかけるのも心苦しいので、就職先は自分で何とか探してみると言っていたが、その一週間で人脈ができたとは思えん。人脈があるとしたら、刑務所仲間くらいしか考えつかんよ。最後に吐いた愚痴はシャバへの恨み節みたいなものだったし」「どんな恨み節ですか」「刑務所で囚人番号で呼ばれている時は、それで気にもならず、気にもされなかった。強盗致傷の罪状も箔にはなっても恥にはならなかった。ところがシャバに出たら全てが逆転した。前科が強盗致傷と言った途端に門前払い、真希竜弥の名前を出しただけで皆が白い目で見る。いっそ前科と一緒に名前も捨てちまいたいと」 思わず蓮田と顔を見合わせた。真希が他人の個人情報を得ようとしたきっかけは、これではなかったのか。「正直、あの時ほど自分の無力さを痛感したことはない。保護司の立場も元町議会議員の肩書