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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

1太陽の末裔目撃 木々のあいだを遠くから渡ってくる風は、むっとする雨の匂いを含んでいた。 この時季に、こんなどんよりした曇り空は珍しい。 菜な穂ほ子こはふと足を止めた。後ろで誰かの忍び笑いを聞いたような気がしたのだ。「ホセ? やだ、脅かさないでよ、迷子になったかと思ったじゃない」 安あん堵どの声を漏らし、振り向いた笑顔がハッとして凍りつく。 静寂。 乾いた白い一本道が密林のあいだに続いているだけで、人影はない。 菜穂子はおどおどした表情で、周囲を見回した。 人の気配はない。「ホセ? ジョアナ?」 弱々しい自分の声がたちまち木々の奥へと消えていった。序章に代わる三つの風景