ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

10序章に代わる三つの風景気がする。「それよりも││明らかに変死だが、こんなものは初めて見る」 職員は半ばあきれ、半ば感心したような声を出した。 それは彼も同じである。 ヒラの警官である彼は、これまでに数えるほどしか死体を見たことがない。感想はいつも同じだった。 けっこう血が出るんだ。 思ったより血が出ないんだ。 それは死因のせいもあるのだが、いつも自分がイメージしている、情報として知っている死体とは何かが異なる気がするのだった。 だが、今回の死体は││ 東京の片隅。築五十年近い古いアパートである。 六畳一間、流しとトイレが付いた、木造家屋。 一階に四世帯、二階に四世帯という、全く同じ造りの部屋が八つあるアパートだった。 今、彼らがいるのは一階のいちばん東側の部屋である。 恐らくは、この部屋の住人なのだろうが、どう考えてももう命はなかった。 ひからびて変色した腕が、そのことを物語っている。 腕は男性のもののようだった。「どうするかな。写真はもう撮ったか?」