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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

14序章に代わる三つの風景まさしく映画のスクリーンそっくりの形が現れる。 部屋の中で座った時の目線の高さで鑑賞するように、庭のすべては配置されている。 ところが、この庭は、どこに立っても見切ることができない。 スクリーンを引き伸ばしたように、人間の視界からはみだす部分があるからだ。 それが、「やけに細長い庭だな」という感想に?がるのだろう。 広い縁側に立って庭を見ていても、まずすべてを視界に収めることはできないのだが、部屋の中に入っても、庭を見切ることはできない。 庭というものが、部屋の中に座って鑑賞することを前提に作られているものだとすると、このことはなんとも不自然である。 大概、部屋の真ん中に机を置き、その周りに座るのが当然だと思うが、この庭は、部屋の真ん中でも見切れず、ずっと奥に行かないと庭全体を視界に収めることは不可能だろう。 この庭を撮った写真はいろいろあるが、カメラマンも全体を一枚の写真に収めるのに非常に苦労していることが窺える。 ところが、あまりに部屋の奥に下がると、今度は庭に配置された石を見ることができないのだ。 日本で最も有名と言ってもいい石庭なのに、石が見えないのでは、鑑賞したとは言えないだろう。つまり、この庭は、いわゆる通常の概念の「鑑賞」に適さない、鑑賞のための庭ではないのだ。 庭に並べられた十五の石は、今も論議の的である。