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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

15太陽の末裔 なぜ十五なのか、なぜこのような配置なのか。 見切れない、という点では、この石もそうである。 どの場所に立ってみても、全ての石を見ることができないのだ。それどころか、十五番目の石は、大きな石の陰に隠れているため、庭に下りて回り込まない限り、目にすることはできない。 奇妙な庭││庭ではない庭。 そうなのだ、とその人物は思った。 これは庭ではなかったのだ││いわゆる、本来の意味においては。 京都市右京区、龍りょう安あん寺じ石庭。 今日も、世界中からやってきた観光客が、思い思いに縁側に座り、見切ることのできない白い庭を眺めている。 作庭したのが誰かも分からない。いつごろからこの石の配置になっているのかも分からない。ただ、少なくとも一七九九年の記録には、現在と同じ形で石が並べられていたことが判明している。 そうなのだ││ここにもちゃんと証拠があったのだ。 その人物は、縁側に佇み、一人何度も首肯していた。 これこそが証拠だ。ずっと目の前にあり、数え切れないほどの人々が長いあいだ目にしていたのに、誰も気付かなかったのだ。 早春の風が、庭の土塀の向こうから垂れ下がるしだれ桜の枝をそっと揺らした。