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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

5太陽の末裔「あいたたた」 まばたきを繰り返したり、目尻をこすったりして、ようやく痛みが治まったのは数分後だった。「あー痛かった」 しょぼしょぼする目を開け、周囲を見回したら、なぜか一人きりだった。 誰もいない。 置いていかれた、と慌てて道を急ぐ。 奇妙だったのは、出口までまっすぐの一本道なのに、先のほうにも誰の姿も見えなかったことだ。おかしいな、とは思ったが、とにかく道を急いだ。 ひょっとして、皆森の中に隠れていて、菜穂子が右往左往するのを眺めているのではないかと思いついたのが、ついさっきのこと。振り返れば、ニヤニヤ笑っているマリオや、ホセにカルロス、ジョアナたちが腹を抱えて笑っているはずだった。 しかし、声を上げ、皆の名を呼んでみても、全く返事はない。 見渡す限りの、無人のジャングルなのだった。 こんなことって。 血の気が引いていくのを感じる。 有り得ない。道を間違えた? 菜穂子は必死に平静を保ちながらも、来た道を引き返した。もう一度、遺跡のところに戻れば、案内表示があるはずだ。