ブックタイトルNHK出版|WEBマガジン|太陽の末裔
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恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!
6序章に代わる三つの風景 だが、道はどんどん細くなっていき、しかも上りになっている。 おかしい。ユカタン半島は広大な平原だ。こんなふうに坂になっているところが、途中にあっただろうか。 混乱しつつも、菜穂子は足を止めることができなかった。 いったん立ち止まってしまったら、二度と歩き出せないような気がしたからだ。 何かがおかしい。 あたしは今、どこにいるの? 続いてその疑問が湧いてきた。 今は、いつ? なぜそんなことを考えたのか分からなかった。 何を馬鹿なこと言ってるんだろ。今は一九八七年で、ここはメキシコのコフンリッチ遺跡に決まってるじゃない。 道の傾斜はますます厳しく、ますます狭くなっていた。これではほとんど山道ではないか。 そのことを不審に感じながらも、彼女はいよいよ足を止められなくなっていた。 いつのまにか、肩で息をしている。目に汗が流れ込み、ひどくしみた。 何も考えてはいけない。 菜穂子は自分にそう言い聞かせていた。 今、自分の身に何が起きているのか気付いたら、きっと耐えられないに違いない││ 心臓がばくばくいっているのは、決して上り坂がつらいためだけではなかった。