ブックタイトルNHK出版｜WEBマガジン｜太陽の末裔

概要

恩田陸「太陽の末裔」：変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説！

8序章に代わる三つの風景いた。　え？　彼女は、その建造物を知っていた。　直に見たことはないが、写真やTVの映像などで、よく見たことのある建物だった。　まさか。そんな。　菜穂子はがたがたと震えだした。　どうして。ここはユカタン半島。日本から遠く離れた、メキシコのど真ん中なのに。　自分の目が信じられなかったが、どう見ても、まごうことなき、あの有名な建物である。　しかも││あれは、夕陽じゃない。　菜穂子はそのことにも気付いた。　あれは、夕陽に照らされて赤いんじゃない││赤く塗られている。　建物全体が、塗料か何かで、真っ赤に塗られているのだ。　なぜ。どうして。　頭の中でぐるぐると疑問が渦を巻いている。　しかし、ジャングルの海の中に屹きつ立りつするその建物は、紛れもなく││赤く塗られ、淡い夕陽に照らされた、東京都千代田区永田町一丁目にあるはずの、日本の国会議事堂であった。