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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

9太陽の末裔事件 電灯がゆっくりと揺れていた。 彼は、それをじっと見上げていた。 電灯が揺れるのは、地震の時だけだ。 子供の頃からそう知っていたので、地震を感じると天井の照明を見上げる癖がついている。 量販品の、汚れた照明は、ゆっくりと左右に揺れていた。 しかし、地震のせいではない。「なんで揺れてるんですかね」 彼は、思わず口に出していた。「ああ?」 鑑識職員が唸う なるような声を上げる。 暮れも押し迫ったこの時期、しかも夕飯どきに呼び出されて、ベテラン鑑識職員は機嫌が悪そうだった。「照明ですよ。さっきから、ずっと揺れてるんです」 彼が照明を指差すと、鑑識職員はつかのまそれをじっと見つめた。「たぶん、建物が傾かしいでるせいだろう。見ろよ、屋根も壁も、傾いてるだろ?」 彼は、そのことに気付かなかった。確かに言われてみれば、部屋全体が歪んでいるような