ブックタイトルNHK出版｜WEBマガジン｜太陽の末裔

概要

恩田陸「太陽の末裔」：変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説！

1緑の章　どこまでも続くその緑のグラデーションを目にした時、あまりにも唐突に古い記憶が蘇ったので驚いた。　それは、かつて幼い頃││小学校に上がる前、幼馴染の菜穂子と私とで郷里の夏祭りに参加した時のことである。　私の田舎には、毎年旧暦の七夕の頃、女の子だけが集まって、夕暮れ時から提灯を下げて歌を歌いながら歩く、という行事があった。わらべ歌によくありがちな意味不明の歌詞で、今では情けないことに、ほんの一部分しか覚えていない。それがこんな歌詞だったのだ││　七夕様は無理なことおっしゃる　七夕様とは誰なのか。いったいどんな無理なことを言ったのか。前後の歌詞を記憶していないのでなんとも言えないのであるが、素朴な短調の曲で、えんえんと似た節回しを繰り返していたことはおぼろげに覚えている。浴衣にピンク色の兵へ児こ帯おびをし、下駄を履いて近所の3