ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

10る。 どこまでも広がる森の中に、舗装されていない一本道が延びていて、三百六十度、どこを見回しても空と森。 人一人くらい、簡単に飲み込んでしまえる││ 自分もそうなるのではないかと不安を覚え、しきりに辺りを見回してしまった。菜穂子を飲み込んだ森は、暗い緑色をしていて、何者かがじっと息を潜めてこちらを窺っているような気がした││ 菜穂子たちは、皆でひとかたまりになって、ゾロゾロと遺跡の中を散策していた時、突風が吹いた。 つむじ風のような、かなり強い風で、しばらく身体をかがめてじっとしていたという。そして、目を開けたら、菜穂子一人だけがいなくなっていたのだ。 最初は、皆、菜穂子が悪いた戯ずらでもしているのだろうと思ったそうだ。 菜穂子は真面目だが、何食わぬ顔で悪戯をすることがあって、今回も、皆をおどろかすために、どこかに隠れて皆を見ているのだろうと。 その手には乗るものかと、皆知らん振りして駐車場に戻った。 たぶん、先回りして一人で車に戻っているのだろうと思った。 しかし、菜穂子はどこにもいなかった。心配になって、名前を叫びながら周囲を捜し回ったけれども、まさにかき消えたようにしていなくなってしまったのである。