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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

11 皆は気味が悪くなった。 ひょっとして、森の中に、誰かが潜んでいて菜穂子をさらったのだろうか? 彼らは警察に連絡した。 警察も、最初は彼らの言っていることをまともに受け止めようとはしなかった。一緒に歩いていたのに、突然いなくなったと言われて、面喰らわないほうが不思議である。 実際、仲間たちも半信半疑だった。こんなことがありうるだろうか。皆一緒にいて、ついさっきまで普通に言葉を交わしていた女の子が一人、ふっつりと姿を消してしまったのだ。 しまいには、事件性を疑われるほどだった。皆して共謀して彼女を殺し、口裏を合わせて「いなくなった」と騒ぎ立てているのではないか? あるいは、仲間の一人が彼女とトラブルを抱えていて、周りに人がいないのをこれ幸いと拉致して手にかけ、森の中に埋めてしまったのではないか? 仲間たちは憤慨した。 菜穂子は皆に好かれていたし、留学生たちで助け合い、一緒に卒業目指して頑張ってきた仲良しのグループだったし、トラブルなんかなかった。 それに、彼女をさらうなり森に連れ込むにしては、目を閉じていたのはそれほど大した時間ではなかったのだ。 ジョアナも、しばらくのあいだ信じられなかったという。 そのうちにひょっこりどこかから現われるのではないか。 ごめんごめん、急用があって、日本に戻っていたのよ。