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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

12 そう電話が掛かってくるのではないか。 そんなふうに思っていたのだそうだ。 むろん、菜穂子は帰国などしていなかったし、日本の家族にも連絡がなかった。当時私と櫂はアメリカに住んでいたので、いちばん近い知り合いということでメキシコに飛んできたのだ。 不可解な事件ではあったが、なにぶんにも外国人留学生だし、日本大使館からのプッシュもあって、警察はそれなりに誠意を尽くして捜索をしてくれたと思う。 しかし、あの日、その瞬間を境に、菜穂子は姿を消してしまい、以来誰も目にしていないのである。 消えてしまった。 つむじ風と共に。 そう考えると、遠足の時のあの音が蘇る。雷のような、お腹に響き渡るような、凄まじい音。それを平然と聞いていた菜穂子。 しばらく経ってから、ジョアナと電話で話したことを思い出す。 ふっつりと消息を絶ったまま、その後なんの情報もないことをひとしきり話したあと、ジョアナはやっぱりまだ信じられない、と受話器の向こうで繰り返した。 そして、独り言のように言ったのだ。 啓示かしら、と。「啓示?」