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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

14かく「神の啓示」なぞ受けるとは思えない。 むしろ、日本人ならば││更に、あの菜穂子であるならば、「神隠し」という言葉のほうがしっくりくる。しかし、長野の山の中で「神隠し」に遭うのならともかく、メキシコのジャングルの中で「神隠し」に遭うなんて。 ジョアナの声を聞きながら、私は違和感に似たものを感じていた。 そのいっぽうで、あの菜穂子ならば、やはり「神隠し」だったのかもしれない、とも頭の片隅で考えていたのだったが。「││えっ? いなくなった?」 耳元で緊迫した声を聞き、ハッとした。 相変わらず車は猛スピードで飛ばしていて、前の座席に座った男の首はピクリとも動かない。 辺りの景色も全く変わらず、がらんとした灰色の草地がえんえんと続いている。「どういうことだ。病院で休んでいたのでは?」 高橋三等書記官は、私が振り向いたのに気付き、声を落とした。 このくらいのスペイン語なら聞き取れる。「そんな。本当に? で、警察は?」 声を更に落として、書記官は顔を曇らせた。「分かった。いったん切る。何か分かったら連絡ください」