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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

15 書記官は何かを振り切るように電話を切って、前を見たまましばし考え込んだ。「何かあったんですか?」 声を掛けると、書記官はチラリとこちらを見た。「菜穂子さんが、病院から消えたそうです」「え?」 ずっと前の、ジョアナとのやりとりが蘇ってきた。 あまりに予想していない言葉ばかりが耳に飛び込んでくるので、意味が取れずに聞き返してしまうのだ。「特に見張りなどはいなかったし、健康状態も悪くなかったので、出て行くのに支障はなかっただろうという話で」「でも」 私は口ごもった。「今、病院の警備の人に捜してもらっています。警察も手配しました」「いったい、どこへ」 書記官は答えない。 私の質問は宙に消え、気まずい沈黙を共有しながら書記官と同様、のろのろと前を見た。 いったい、どこへ。いったい、なぜ││今になって。 私たちの前には、疑問符ばかりが浮かんでいる。 そう││十五年前に、ここユカタン半島で消えた菜穂子が、フラフラと平原の中を歩いて