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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

2児童公園に集まる。うっすらと暮れてくる宵闇の中、提灯を畳んで小さなロウソクに火を点ける。手で風を避けるように火を覆い、ゆらゆらと揺れる炎が子供たちの顔を照らし出す。そんな光景が浮かんでくる。幼い菜穂子の顔。あの、いつも落ち着き払っている、子供のくせにやけに老成した雰囲気を漂わせていた彼女の黒目に、ロウソクの炎が映し出されていたところを。実は、大人になってから「あれはいったいどんな歌詞だったんだろう」と、インターネットで検索してみたことがある。「わらべ歌」でも「地方の行事」「七夕の行事」でも全く引っかからなかった。どうやら、今は廃れてしまったらしく、もうあの行事は行われていないらしい。 うちの生家は長野であるが、父の仕事で海外赴任していた期間もあり、両親も今は東京に住んでいるので、足を運ぶ機会はめっきり減ってしまった。 すべてが記録されなんでも「残る」時代になり、「忘れられる権利」まで論議されるいっぽうで、こういった綿々と受け継がれてきたはずの風習や歌が、なんの痕跡も残さずにあっさり消えていくのは不思議な気がする。 樹海、というとどうしても富士山のそれを思い浮かべてしまう。湿った暗い場所、迷ったら出られない死の場所というイメージだが、目の前のそれはそんなイメージとはほど遠く、むしろどこか乾いている。ただ、海が潮目によってあちこち色が異なるのと同じで、ひと口に緑といってもこんなにも多彩な色彩を持っているのか、と目を見