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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

8 そう、あの時のことを思い出したのは、このユカタン半島でのことだ。 菜穂子と同じクラスで仲良しだった、あの背の高い女の子が何気なく呟いたのだ││ ナオコはチャック・モールみたいなところがあったわ││  チャック・モール。 初めて耳にした時は、それが何なのか分からなかったが、今ならばもう知っている。 マヤ文明の雨の神様。 大きな川のないユカタン半島では、雨は貴重で、文字通り都市と人々の命運を握っていた。雨をもたらす神、チャック・モールの姿は、各地の遺跡に夥おびただしい数が彫られている。単純化され、記号化された姿で、びっしりと壁面を埋め尽くしているところもある。 あの時、私は彼女に聞き返した。何か聞き間違えたのかと思ったのだ。 ││あ、それがね、信じられないかもしれないけど。 そうだ、ジョアナだ││あの子の名前はジョアナと言った。いかにも陽気なヤング・アメリカンで大柄な彼女は、戸惑うような中途半端な笑みを浮かべた。 彼女、すっごく天気予報が当たるのよ。皆、不思議がってたわ。魔法使いなんじゃないかって。特に、雨になる時はよく。観光ガイドには便利な能力だよねって、皆で言ってたの。