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概要

恩田陸「太陽の末裔」:変死体、建築家の日誌、行方不明の留学生の手記。日本と南米をつなぎ、古代インカ・マヤ文明の謎と人類の未来を描く、恩田陸待望の長編伝奇小説!

9 なるほど、だからチャック・モールか。説明を聞いて、そう思ったことを覚えている。 あの時、すっごい強い風が吹いたの、目を開けていられないくらい。雷みたいな音がしたわ││ ジョアナはそうも言った。 私はその時、遠足の一件を思い出した。山の向こうで轟いた、雷のような凄まじい音。 菜穂子が失踪した当時のことは、全くもって不可解だった。 ユカタン半島のコフンリッチ遺跡。 マヤの遺跡はあちこちに点在しているが、有名なところ以外はほとんど人ひと気けがないというのを、あの時初めて知った。 特に、観光シーズンではなかったので、事件当時もほとんど観光客はいなかったという。 菜穂子は、大学の観光学科の仲間たちと一緒に、二台の車に分かれて、七人で遺跡巡りをしていた。休みの度に、メキシコの観光地を実地で回って、取材と行楽を兼ねて土地鑑を養っていたのだそうだ。菜穂子は優秀な学生で、皆も何かと頼りにしていたという。 私たちも行ってみた。コフンリッチ遺跡。何ができるわけではないけれど、菜穂子が姿を消した場所を、この目で見てみたかったのだ。 正直、異様な感じがした。 メキシコの観光地は、どこも人でいっぱいなのに、本当にがらんとして誰もいないのであ