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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 11/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11は、あまり聞きたくない言葉だった。この言葉を耳にするたび、自分のちっぽけさを痛感してしまうからだ。( 美み智ち子こ、怒るだろうなぁ)ぼんやりデスクの上に広げた原稿用紙を見ていると、一つ年上の恋人の顔が目に浮かぶ。自分が一日も早く編集者として独り立ちすることを心から期待している彼女に、この状況をどう説明したものだろう。ただでさえ残業や休日出勤が多くて、最近は少しも会えなくなっているというのに。そんなことを考えていると、無性に美智子の声が聞きたくなった。なるべく会社に電話しないように言われているが、こういう場合は許してもらえるのではないかと思える。何せ、やっぱり非常事態だから。デスクの上の電話に手を伸ばそうとして、トモローは手を止めた。さすがに、ここから電話するのは、まずいだろう。「岡田さん……とりあえず俺、どうしたらいいですかね」目の前に山積みされている本越しに、尋ねる。「そう聞かれても、正直なところ、俺にもわからないよ。仕事を続けるのは無意味だし、お世話になった人たちに御礼の電話をかけるには早すぎるし……そのうち蓼原さんから指示があるだろうけど、今は無理そうだしな」岡田がそういったところで、会議室の方から、もはや怒鳴っているのに近い声が響いてく