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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 12/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

12る。「冗談じゃありませんよぉ! 家のローン、あと何年残ってると思うんですか!」聞こえてきたのは営業の益ます田だという男の声だが、その気持ちは十分にわかる。彼は去年、駒込に家を買ったばかりだ。こういう場合、まだ人生の荷物が少ない自分は、ダメージも少なくていい……と思わないでもない。とりあえず心配するべきは、家賃とクレジットカードの引き落としくらいのものだ。銀行に五十万くらいの貯金はあるから、すぐに路頭に迷うようなこともなかろう。それに木下の話では、希望すれば美﨑商会への再就職の道が開かれているという。だから、まったく畑違いのものを売ることに目をつぶれば、益田がマイホームを手放すようなことにはなるまい。家具を売るなんて、自分には向かない仕事ではあるが。「斉藤くん、何なら外の空気でも吸ってきたらどうだい? もし何かあったら、ポケベル鳴らしてあげるからさ」益田の怒声がしだいに湿り気を帯びてくるのを聞きながら、岡田は言った。先輩である益田が号泣するところなんか、あんまり若い者に聞かせたくないのだろう。そして、そうなるのは時間の問題のように思えた。「じゃあ、お願いします」引き出しに入れておいたポケットベルと財布を上着のポケットに移すと、トモローは静かに席を立ち、やはり静かに会社の外に出た。