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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 13/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

13トモローの会社は銀座一丁目にあり、外に出ると目の前に昭和通りがある。何となく賑やかな方には行く気にならず、京橋の方に向かって歩き始めた。(それにしても人生ってのは、一瞬で変わるもんだな……)ほんの二時間ほど前、トモローは同じ通りを歩いて、馴染みのトンカツ屋に昼飯を食べに行った。その時は仕事の段取りで頭がいっぱいだったが、その時に考えたことのすべてが、今では無駄になってしまった。あれはいったい何だったんだろう。やがてトモローは電話ボックスに入り、美智子が務めるデザイン会社に電話をかけた。うまい具合に、当の美智子が電話に出る。もっとも彼女も会社では下っ端だから、ある程度予測はしていたが。「あら、トモくん? どうしたの、会社に電話なんてしてきて」相手が自分とわかると、美智子は声を潜めた。やはり下っ端としては、堂々と私用電話しているのは気まずいのだろう。その時になってトモローは、まったく話の組み立てを考えていなかったことに思い至った。美智子にもショックを与えないよう、それなりの言い方を考えておくべきだった。「えーっとね……」頭の中にいろんな言葉が浮かんでは消えるが、結局飛び出てきたのは、あまりといえば、あまりな直球表現。「俺の会社、つぶれちゃった」