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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 3/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

その時、駆け出しの編集者だった彼は、会社のデスクでインタビュー原稿のテープ起こしに熱中していた。本来なら外注すべき仕事だが、たいして長くない記事なので、自分で要点だけ書き抜いた方が早かった。結局は自分で原稿にまとめるのだから、頭の整理と同時に経費も節約できて、ある意味一挙両得なのだ。「みんな、ちょっといいかな」昼の二時を回った頃、席を外していた編集長の蓼たで原はらが部屋に戻って来たかと思うと、どこか沈んだ声で言った。顔をあげて蓼原を見るとわかりやすく肩が落ちていて、いつものエネルギッシュな印象とは明らかに違っている。(まさか……誰か死んだとか言うんじゃないだろうな)編集長の冴えない顔色を見て、トモローはとっさにそう思った。蓼原があんな顔をする事態というのは、それくらいしか想像できなかったからだ。けれど五人の編集部員は、全員部屋に揃っている。ということは、もしかすると営業部の誰かが、いきなり不幸にでも見舞われたのだろうか。そう言えば、まだ顔を見ていない営業担当が何人かいるけれど。「大事な話があるから、みんな、会議室に集まってくれないか」「私、今から取材に行くところだったんですけど」蓼原の言葉に、トモローより二年先輩の榎えの本もとという女性社員が、眉を顰ひそめて答えた。