tomorou001

NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 4/16

電子ブックを開く

このページは tomorou001 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

「悪いけどキャンセルするか、時間をずらしてくれ。大して時間はかからないと思うが、とにかく大事な話なんだ」「わかりました。手配します」いつもなら「戻ってからじゃダメですか」とか「絶対に今、聞かないといけないような話なんでしょうか」と、一言は逆らうはずの彼女が、珍しいほど素直にそう言ったのは、やはり編集長の表情にただならぬ気配を感じたからだろう。「いったい、何なんでしょうね」向かいの席に座る先輩の岡田に小さな声で尋ねると、彼も不思議そうに首を傾げた。「あんまり楽しい話じゃなさそうだね……長い付き合いだけど、蓼原さんのあんな顔、見たことないよ」すでに八年以上も会社にいる岡田は、ビュアーの上に広げていたポジフィルムをまとめながら答えた。トモローが働いているのは、『美術オリオン』という美術雑誌を作っている小さな出版社だ。書店には少数流通しているのみで、基本的には画家や画廊、美術愛好家に年間購読してもらうことが基本の月刊誌である。大手出版社の発行する美術雑誌に発行部数では敵わないが、どうにか潰れずに創刊以来十五年間、年十冊(夏と年末は合併号)をコンスタントに発行してきた。それは編集長を務める蓼原の、美術に関する造詣の深さと作品を見る目の確かさに