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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 9/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

「そうよ。で、おじいちゃんなんだけど……実はもう、あまり長くないんだって」思わずトモローは、ハンバーグを口に運びかけていた手を止める。「もう八十歳近いから、何があってもおかしくはないんだけどさ……肝臓ガンなんだって」「かなり悪いの?」「お医者さんの話だと、夏までもつかどうか、わからないって」トモローは絶句するしかなかった。つまり、もう三か月くらいしかないということか。(ホントに……人が死ぬことほど、イヤなことはないなぁ)止めていた手を動かしてハンバーグを口に入れたけれど、あまり味がわからなかった。実際、この世でもっとも辛くて悲しいことは、人が死んでしまうことだと、トモローは骨身に染みて知っていた。すでに父と大切な友人の一人を亡くしているが、どちらの場合も、しばらく立ち直れないほどのショックを受けた。あんな辛い経験は、なるべくならしないでおきたいとは思うが、諸行無常の世である限り、そうもいかないのが現実だ。「そのおじいちゃんが、どうしても私の花嫁姿が見たいって言ってるのよ」「なるほど……そういうことか」そういう事情なら、結婚を急ぐのもわかる。言ってみれば、タイムリミットを突き付けられたようなものだ。「実は近いうちに相談しようとは思ってたんだ。だから今日会えたのは、ちょうどいいタイミングだったんだけど……まさか、トモくんの会社がつぶれちゃうなんてねぇ」