tomorou003

NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 2/16

電子ブックを開く

このページは tomorou003 の電子ブックに掲載されている2ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

 アイロンの利いたワイシャツの襟元を細身のネクタイで締め上げ、クリーニング屋から戻って来たばかりのスーツを着込んでいるトモローは、そのリラックスぶりに舌を巻いた。自分はできるだけ正装に近づけてきたつもりなのに。「だって私の家で、私の親と話すんでしょ。どうして私が、いちいち服を着替えないといけないの?」「そりゃ、そうだけど……俺は、ちゃんとしてきたのに」「トモくんは、その格好でいいのよ。だって、これから『ぼ、僕に、お嬢さんをくださいっ』ってのを、やらかすんだから」 確かに美智子の言うとおりで、結婚の許可を求めに来た自分が、いつものジーンズ姿というわけにはいかないだろう。けれど、せめて美智子も、少しくらい改まった格好をしてくれればいいのに……とも思う。やっぱり、これから夫婦になろうというんだから、それくらい合わせてくれるものじゃないの。「まぁまぁ、細かいことにはこだわらないで……ほら、ちゃんとこうして、駅まで迎えに来てあげたでしょ」 トモローが思ったとおりのことを言うと、美智子は馬でもいなすみたいに、トモローの背中を叩いて答えた。どうどう、どうどう。「だいたい、いつもみたいに自転車で家まで来ればいいのに、なんで今日に限って電車で来るのよ」