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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 4/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

「あー、緊張するな」 駅から十五分ほど歩いた住宅街の一角にある美智子の家に着くまで、トモローは二十回以上も、その言葉をつぶやいた。「なんで、そんなに緊張するのよ。うちの親なんて、もう見飽きてるでしょ」「そりゃまぁ、そうだけどさ……いや、やっぱり緊張するよ」 美智子の両親とは高校生の頃に初めて会い、それ以来、頻繁に顔を合わせている。美智子は親に隠し事ができない性分なので、付き合い始めてすぐに家に連れて行かれたのだ。それからは、ほとんど家族の一員扱いで、おそらくは、すでに美智子の“婚約者”として認知されているに違いなかった。社会人になってから頻度は減ったものの、大学生の頃は三日に一度は夕食をごちそうになっていたほどだ。 だから結婚のことも、比較的言い出しやすい環境ではあるのだが──やはり無職になってしまったというのは大きい。いくら柔和で物わかりのいいお父さんでも、多少なりとも難色を示すのではないだろうか。「もしかして、お兄さんの言ったこと、気にしてる?」 その切ない胸の内を語ると、美智子はトモローの顔を覗き込むようにして尋ねてきた。「そりゃあ、まぁ……少しはね」「やれやれ、ゴローさんも罪作りだなぁ。言ってることはわかるんだけど」「いや、兄貴の言うことも、もっともだからさ」