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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 5/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

 トモローはあきれたような兄貴の顔を思い出して、小さく溜め息をついた。 兄貴のゴローは三つ年上で、父亡き今となっては、トモローの唯一の肉親である。さすがに血を分けた兄弟だけあって顔はよく似ていたが、性格は正反対だった。 何せ兄貴は、かつては『イナヅマ☆ゴロー』という痛い異名(☆含む)で呼ばれ、地元ではかなり顔の売れたヤンキーであったのだ。当然のように腕っぷしも気も強く、頑固なまでに男気に溢れ、もちろん口より先に手が出るタイプだ。 亡き父とトモローは、その傍はた迷惑な言動にさんざん振り回されたものだが──父の死を境にして兄貴も心を入れ替えたらしく、今ではマジメに運送屋で働き、可愛い奥さんと二人の子供に囲まれて幸せに暮らしているのだから、人生はわからないものだ。 実は数日前に、トモローは家の近所の居酒屋で、兄貴に結婚の報告をしていた。今は親代わりのようなものなので、当然の成り行きである。 感情の振り幅の大きい兄貴のことだから、きっと祝福してくれるだろう……と思っていたのだが、まったくそうではなかった。むしろ あきれ果てた声で、こう言われたのだ。「トモロー、おまえバカか? 会社つぶれたとたんに結婚するなんて、ありえないだろ」「やっぱり、兄貴もそう思う?」「思わないわけないだろ。一人じゃ食えなくっても二人なら食えるって……美智子ちゃんも、呑気なこと言うなぁ。これだから、お嬢サマはよ」 兄貴はビールを一息に飲み干し、空になったジョッキを乱暴にテーブルの上に置くと、派