tomorou003

NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 8/16

電子ブックを開く

このページは tomorou003 の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

子ちゃんは我慢してるんだ」 兄貴に、美智子の何がわかるんだよ──そう言い返してやりたい気もしたが、トモローは黙るしかなかった。何だか、兄貴の言うとおりのような気がしてきたからだ。「とにかく結婚するってのは、簡単なことじゃねぇんだよ。おまえは自分が死んでも、美智子ちゃんを幸せにする義務があるんだぞ」 兄貴に何本もの釘を刺され、トモローの意気は下がりに下がった。好きだったら万事OK……とは行かない現実を、今さらながら教えられた気がする。 それ以来トモローは、自分に結婚する資格があるのかどうか、はなはだ疑わしい気持ちになっていた。本当なら、そのあたりのことをもっと早く考えておかなければならなかったのだろうが、仕事と自分の夢に追われて、完全に後手に回ってしまっていたのだ。 正直なところ、このまま美智子の両親に会ったところで、兄貴と同じようなことを言われるような気がする。千葉にいる美智子の祖父に彼女の花嫁衣裳を見せなければならない以上、時間が潤沢にあるとは言えないが、少なくとも今以上に、自分の環境を整えるべきではないのか。 家までの道を歩きながら、トモローがぽつりぽつりと言うと、美智子は露骨にウンザリした表情を浮かべた。「ちょっとトモくん、お兄さんの言葉に敏感過ぎるんじゃない?」 やがて自分の家が見えてきたところで、美智子は言った。