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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 14/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

14男の方は特に何もないので、すべてを頭で理解しなければならない。赤ちゃんが生まれるということは、自分が父親になるということであり、家族が一人増えるということであり、それに伴って、いろいろなことが変わっていくということだ──とりあえず、そんなふうに理解はできるが、同時に今一つ、自分の身の起こった出来事のような気がしない。よくテレビドラマなどだと、妊娠の報告を聞いた夫が、「よくやった!」と妻を抱きあげたり、狂喜乱舞してバンザイ連呼、というシーンがあるが、どうして、そんなに早く反応することができるのだろう。それとも、そういう反応が、いわゆる〝お約束”なのだろうか。「まったく……トモくんのステゴザウルスぶりにも、呆れちゃうわね」トモローの反応の鈍さに苛立ったように、美智子は腕組みして言った。ちなみにステゴザウルスという恐竜は、体の割に脳が小さいらしく、しっぽの先に岩が落っこちても、十分くらい経ってから痛みを感じたのだそうだ。それが事実かどうかは知らないが、トモローもそれに匹敵するほど頭の回転が鈍い時があって、よくステゴザウルス並みだと美智子にからかわれるのだ。「子供が生まれるってことはさ、私とトモくんが、いろんな意味で家族になるってことだよ」しばらく何事か考えていた美智子が、やがて静かな声で言った。「何言ってんの、今でも家族じゃん……ちゃんと結婚もしてるんだし」