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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 4/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

いのが現実世界の切なさである。兄が中学に入ってしばらくするまで、兄弟二人で夕食を作るのが当たり前だったが──やがて兄は良くない友だちと遊ぶ方が面白くなり、一緒に夕飯を食べることが少なくなった。「俺、メシ食わないから、カネくれよ」とふざけたことをほざいて、父が置いていった現金の半分を持って、夜遊びに出ていくようになったからだ。その後、兄は立派にグレたが、それは当然の流れだろう。「トモくんは、よくグレなかったね」この頃の話を聞かせるたび、美智子は笑って言うが、それどころではなかったから……というのが正しいところだ。何せ買い物の予算を大幅に削られてしまったのだ。時には出来合いの惣菜で済ますという手も使えなくなり、材料を買ってきて自分で調理するしかなかった。いわば強制的に、料理の腕をあげることを要求されたのである。メニューにも、それなりに頭を絞らなければならない。そんな切実な事情で、トモローは料理を覚えた、初めのうちこそ、味噌汁は単に味噌をお湯で説いたものだ……と信じていた小学生も、やがては父も舌を巻くほどの豚汁が作れるようになり、さらには比較的難易度の低い玉子丼をマスターした後、そこからカツ丼(ただしトンカツは店で買ってくる)や他人丼に発展させるに至った。さらに市販の“○○の素”を使ってレパートリーを広げ、いつしか日々の夕飯