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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 7/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

苦いものでも込み上げてくるのか、胸元をトントン叩きながら、美智子は答えた。「今年が一緒に過ごす、最後のお正月かと思うと……さ」美智子はしんみりした口調で言ったが、ハンドルを握っていたお義父さんが、笑って答えた。「今日の元気な様子を見る限り、来年も再来年も、なんだかんだ年を越してそうだけどな……なぁ、トモローくん」「ホントに、そうれすよね。とても深刻な病人には見えませんれしたよ」「やだ、トモくん、酔っぱらってる。『そうれすよね』だって」呂ろ律れつのまわっていないトモローの返答を聞いて、美智子は困ったような顔で笑った。普通に笑いたいのに、胸がムカムカして、そんな複雑な表情になるのだろう。「ひょうがないじゃん。おじいちゃんがどんどん注いでくれるんだから……やっぱり断れにゃいって」トモローはかなり酒に強い方だが、矢継ぎ早に勧めてくるのには、さすがにまいった。グラスが半分ほどになると注いでくれるのだが、その際に「さぁ、ぐっと空けて」と言われるので、結局はかなりのハイペースで飲まされることになった。ちなみに親子だけあって、美智子の祖父の風貌は、お義父さんとよく似ている。けれど頭が完全に禿はげ上がり、金色のフレームのメガネをかけているので、シャーロック・ホームズというより、マハトマ・ガンジーを髣ほう髴ふつとさせた。