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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 8/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

「親父は、自分じゃ飲んだり食べたりできなくなったからな。トモローくんたちに勧めて、自分も一緒に飲んでるような気分になってるんだよ」美智子の祖父は八十歳をいくつか過ぎていたが、肝臓ガンを患っていて、一度は昨年の夏までもたない……という宣告を受けていた。美智子の花嫁衣裳を見せるために、トモローたちはバタバタと結婚したのだが、美智子の祖父は夏を過ぎても元気だった。確かに結婚式前後の頃は顔色も優れなかったように思うが、最近は会うたびに血色が良くなり、元気になっているような印象である。老体なので、病気の進行も遅いのだろう……というのがお義父さんの解釈だが、何にせよ、毎日を元気に過ごせるのはいいことだ。こういう誤算も、たまにはなくっちゃ。「それにしても親父は、トモローくんのことが相当気に入ってるみたいだな。ずいぶん熱心に話し込んでたみたいじゃないか。いったい何の話をしてたんだい」知的で上品な顔つきをしているお義父さんには、イメージ的に“親父”なんて言葉づかいは不似合にも思えるが、実際はかなりの庶民派であることは、長い付き合いで熟知している。「いえ、特に何の話ってこともなくて、まぁ、とりとめのない話を……あっ、そういえば誰か、僕のこと、バラしちゃいました?」酔った頭でその時の会話を思い出しながら、トモローは尋ねた。「バラしちゃったって、トモローくんの会社がつぶれちゃって、今は家で主夫業をやってるってこと?」