tomorou005

NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 9/16

電子ブックを開く

このページは tomorou005 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

お義母さんは何の屈託もなく言うが、その字面だけ見ると、けっこう悲惨。「俺は別に言わないけど……親父に何か言われたのかい?」余計な心配をかけまいと、トモローが働きに出ていないことは秘密にされていた。別にトモローが頼んだわけではなく、お義父さんたちの判断である。「言われたっていうわけじゃないんですけど、おじいちゃんが『でっかい夢を持ってないヤツは、ダメだよなぁ』って、やたらとおっしゃるもんですから……もしかして俺が小説家志望だって知ってるのかなって思ったんれす」「あぁ、親父は昔から何かにつけて、そういうことを言うんだよ」巧みに車線変更しながら、お父さんは言った。「何せ親父は、今でもパリのホームレスに憧れているくらいでね。昔から、変にロマンチストなんだ」パリのホームレスって、何だかカッコいいな……とトモローは思ったが、それはきっとリアルに生活困窮者になりたいという意味ではなく、芸術の都パリで自由に暮らしたいという意味だろう。その場合のパリも現代のパリではなくて、きっと古き良き時代の、すでに失われたパリであるに違いない。「俺も子供の頃に、よく言われたもんだよ……ウカウカしていたら人生なんて、あっという間に終わる。だから夢を持たなくっちゃダメだ。夢は人生のコンパスみたいなものだから、それがなければ北も南もわからない……って」