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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 10/20

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

10れ、妊婦用の料理が紹介されている本を買い込んで、片っ端から試してみた。おかげで料理の腕は上がったが、どうしても小説を書く時間は少なくなった。「トモくん、そんなに無理しないで。時には手抜きしたっていいんだよ」美智子はそう言ったが、ハイそうですか……と頷くわけにはいかなかった。一応は“主夫”である以上、それが自分の仕事であるのだから、簡単に努力を放棄するのも憚はばかられるのだ。「今から、そんなに頑張らなくってもいいんだよ。それより、ちゃんと小説は書けてるの」「大丈夫だよ。ミッちゃんが会社に行ってる間、バリバリ書いてるから」 美智子のお腹がそれほど目立たないうちは、その言葉どおりにできたが──やがて服の下にメロンでも隠しているのではないか……と思えるくらいに膨れてきてからは、そうも言っていられなくなった。やるべきこと、やらなくてはならないことが、どんどん増えていくのだ。とりあえず夏までに必ずやっておかなくてはならないのは、狭いアパートの中を整理して、ベビーベッドを置く場所を作っておくことだ。その言葉だけ聞くと、たいして難しいことではないように思えるかもしれないが──実は引っ越しをした時点で、部屋にはかなりモノがあふれていた。スペースがあるのをいいことに、トモローが一人暮らしをしていた頃の荷物を、ほとんどそのまま運び入れてしまったからだ。