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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 11/20

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

11やはり小説家を志すだけあって、トモローはかなりの量の本を持っていた。その多くは文庫本だが、古本屋で奮発して買った全集もあれば、人から譲り受けた百科事典もあった。また雑誌の類も多く(創作に役立ちそうな記事が載っていると、そのまま取っておいてしまうのだ)、それらをどうにかしなくては、ベビーベッドを置く場所が作れそうになかった。結局、引っ越しの際に手を抜いた片づけを、改めてしなくてはならなくなったわけだが──これが存外に時間を食って、一日が恐ろしい速さで過ぎていった。活字に執着を持つ性分のトモローには、選別するだけで大仕事なのだ。また途中、トモローの心が大きく揺れた時期もあった。美智子のお腹が大きくなって、誰が見ても妊婦とわかるようになってから、やはり自分が仕事に出た方がいいのではないか……と改めて思ったのだ。別に兄貴の言葉を真に受けたわけではないが──大きなお腹を抱えたまま、混んだ電車に乗って仕事に行く美智子が、かわいそうに思えてならなくなった。特に、何度か軽い貧血を起こして、駅のベンチで休んだ……という話を聞いたときは、そんな美智子を仕事に行かせている自分が、とんでもなく身勝手で傲慢な人間のように感じられた。「やっぱり俺が仕事に行くことにして、ミッちゃんは家にいた方がいいんじゃないかな……その気になれば仕事なんて、すぐに見つかるから」何度かそう言ったことはあるが、いつも美智子の返事は同じだった。「そんなのイヤだよ、トモくん……私は欲張りだから、人生のおいしいところを総取りした