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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 14/20

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

14だろう。いよいよ出産予定日の六週間前になり、美智子は産休に入った。医者に言われた予定日は八月十日で、二人はそれをもじって〝ハットちゃん〟と性別不明な呼び名でお腹の赤ちゃんを呼んでいたが、その日になってもまったく陣痛は起こらなかった。義姉やお義母さんが言っていたように、やはり最初の出産は予定日より遅れるものらしい。お盆の間に産気づいたら困るな……とトモローは思ったが、その心配も空振りに終わった。落ち着かない気分で日々を送っているうちにお盆は過ぎていき、ついには九月になってしまったのだ。美智子が通っていた産婦人科は、アパートから徒歩十分ほどのところにある小さな病院で、できるだけ陣痛促進剤を使わず、自然な分娩をめざすのがポリシーだった。大きな病院と比べれば設備は劣っているが、地元では名医で通っており、お義母さんの強い推薦があって、そこを選んだのであるが──そこの院長でさえ、「少し遅すぎるな……あと三日以内に陣痛が来なければ、促進剤を使おう」と判断するほど、美智子のお腹の中の赤ん坊はノンビリしていた。その期日ギリギリの三日めの朝、待ちに待った陣痛が来た。「イタタタタ……ようやく、おいでなすったわ」朝食を食べて間もない頃だったので、見方によっては、何か変なものを食べてしまったか