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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 18/20

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

18たが、その声に次第に熱がこもり始め、「いきんで! 思いっきり、いきんで!」と叱しっ咤たするような口調に変わったかと思うと、やがて──ほんの一瞬の静けさがあって、その直後に赤ん坊の泣き声が聞こえた。「う、生まれたぁ」感極まった声で言ったのは、お義母さんだった。「元気な女の子ですよ!」分娩室の扉の向こうから、助産婦さんの明るい声が聞こえてくる。(生まれた……)今、扉の向こうで声をあげているのは、まごうかたなく自分の娘なのだ……と思うと、喉のあたりがキュッとすぼまるような感じがした。自分の子供──自分の娘。思わず分娩室のドアノブに手を掛けると、中から医者の鋭い声が聞こえた。「今、開けちゃダメだよ!」「あ……すみません」素直にドアノブから手を離したトモローは、お義母さんに軽く一礼すると、そのまま病院の玄関から外に飛び出した。病院の周囲は静かな住宅街で、歩いている人影は見えなかった。(俺が、お父さんになるなんてなぁ)