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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 8/20

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

義姉が鋭く突っ込む。「何言ってんだー、おまえが一番に決まってるだろー」脊せき髓ずい反射のように兄貴は答えたが、その口調は棒で、けして本音ではないことが、さりげなくアピールされている。義姉は聞こえよがしに舌打ちしたものの、それ以上は踏み込まなかった。「人間なんて、みんなそうだろう? 大切なのは愛だの金だの言ってみても、結局は自分が生きていればこそじゃないか」まったく、そのとおりだと思う。死んでしまったら、世界のすべてはそこで終わってしまう──少なくとも自分自身にとっては。「でもよ、子供ができると違うんだぜ……変な話に聞こえるかもしれないけどな、こいつらのためなら、死んでもいいって思うようになるんだよ」その瞬間、近くで上の子が始めた遊びに関心が行ったのか、下の子は父親の腕をうるさそうに振りほどいて、その懐ふところから離れていった。まさしく親の心、子知らず。「よく映画とかドラマでよ、悪いヤツが子供を人質にしたりするじゃないか。それで親が涙を流しながら、『自分はどうなってもいいから、その子だけは助けてくれっ』なんて叫ぶだろう? 俺も昔は、ああいうのは一種のお約束だと思ってたんだ。とりあえず言わせとけ、みたいな……でもよ、親になったら、すごくリアルな言葉だってわかるんだよ。親なら、絶対にそう言うはずなんだ」