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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 9/20

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

まるで自分に言い聞かせるような口調で兄貴がつぶやくのを聞いて、トモローは違和感を覚えた。兄貴は──もう母親のことを許したのだろうか。昔は、さんざん嫌っていたのに。「まぁ、人にもよると思うけどな」さっきと同じ言葉を再び口にしたのが、その疑問への答えなのだろう……とトモローは思った。「子供が生まれたら、おまえもわかるよ」兄貴はそう言って笑ったが、やはりトモローにはピンと来なかった。やがて美智子のつわりも治まり、今度はやたらと食べるようになったが、トモローの生活に大きな変化は現れなかった。せいぜい妊婦用雑誌の購読を始めたくらいで、至ってノンビリしたものだ。けれど、美智子のお腹が少しずつ前にせり出してくるにつれて、徐々に変化が現れた。わかりやすいところでは、美智子の両親が毎日のように電話してくるようになり、休日には必ず顔を出すようになったことだ。「トモローくん、毎日の食事で、十分にカルシウムやたんぱく質がとれるようにしてね」「栄養をつけさせるのはいいけど、なるべく太らせないようにね」そんな矛盾しているようなことをお義母さんから言われるようになり、トモローはさらなる精進を求められるようになった。栄養バランスのとれたレパートリーを増やす必要に迫ら