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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 2/16

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

たけれど、だからと言って、いきなり自覚のようなものが湧いてくるものでもないらしい。この子が人間を始めて間もないように、トモロー自身も父親を始めて間もないのだから、それは仕方ないことなのかもしれない。とりあえず、がんばらなくっちゃな──赤ちゃんを見ながら拳を握りつつ、トモローは思った。何せ、やることは山積みなのだ。会社勤めをしていないのをいいことに、一日中でも病院に張り付いていることはできたが、看護師さんたちが不審そうな顔をするので、昼間は家のことをするようにした。もちろん、いつでも赤ちゃんを迎え入れられるよう、部屋の整頓は終わっていたし、ベビーベッドの設置も完了していた。しかし、生まれる前は「こんなものでOK」と思っていたことが、実際の赤ちゃんを見たとたん、その認識が甘かったような気がしてきて、トモローは再び部屋の大掃除に取り掛かった。急遽カーペットを取り換えたり、カーテンを洗ったりと、その気になると、やるべきことはたくさんあった。他にも美智子たちが退院してくる前に、必要なものを買い足したりする雑用があったが、何より大切なことがあった──子供の名前である。もちろん美智子もトモローも、以前からあれこれ話し合っていたが、思わぬ横よこ槍やりが入ってきて、気楽に考える……というわけにはいかなくなってしまった。横槍の主は、もちろん浮世の義理人情にうるさい兄貴である。「おまえ、初めての子供なんだから、おじいちゃんにつけてもらうのが常識だぞ」