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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 9/16

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

文句をつけないで」「いや、べつに文句をつけてるとかじゃなくて……」その後、再び短い話し合いを経て、結局、娘の名前は『智里』と決まった。実は考案したのは自分だったので、少しばかり鼻が高くなるのをトモローは感じた。(チサト……うん、やっぱり、いい名前だよ)翌日、その名前で出生届を提出し、めでたく新しく世界にやってきた女の子に名前がついた。それまで単に“赤ちゃん”と呼ばれていた子供は、名前も戸籍もある、一人前の存在となったのである。ところが──思いがけない、小さな落とし穴があった。みんなは赤ちゃんを抱きながら「チサトちゃん」と呼んでいたのだが、ある時、お義母さんが何気なく「チーコちゃん」と呼んだ。あくまでも軽いノリで愛称として使っただけなのであるが、その呼び方が、なぜかみんなに受け入れられたのだ。「ほら、チーコちゃん、オシメ取り換えようねー」「あぁ、チーコちゃんが一人前にアクビしてる」「チーコ、寝てばっかりだな」「あっ、チーコが泣き出した」やがて、ごく自然に呼び名が「チーコ」で固まってしまい、その後、チサトという本名は、パブリックな場に出る時くらいしか、使わなくなってしまったのだ。