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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 2/18

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

い限り、会社側の要望に応えておくに越したことはないのだ。二人は相談して、美智子は三月一日から会社に出ると決めた。それを遊びに来ていたお義母さんに報告したとたん、いきなり大前提をひっくり返すような発言が飛び出したのである。「急に何を言い出すのよ、お母さん」自分の母親が言い出したことに、美智子は目を白黒させた。「今さら、それはないでしょう」「でも……やっぱり世間のほとんどの家では、お父さんが会社に行って、お母さんが家にいるものでしょ。別にチーコがいなければ、全然それでも構わないと思うの。美智子がバリバリ働いて、トモローくんが小説家になる夢を追求するのも悪くないと思う」実際、美智子が会社勤めを続けることは、お義父さんとお義母さんの希望でもあったはずだ。昔よりは良くなったと言っても、社会は旧態依然の体質──つまりは男中心の社会である。その仕組みの中で、娘の美智子が女ゆえに理不尽な扱いを受けたり、自分の夢をあきらめなければならないような事態になることを、お義父さんたちは嫌がっていた。だからこそ、トモローが主夫として家事をやることに賛成してくれたはずなのだが──やはりチーコが美智子のお腹から出てきて、こっちの顔を見てニッコリ笑ったりできるようになった日には、そういう考えもあっさり変わってしまうものらしい。やはり頭の中だけでイメージするのと、目の前に実物の赤ちゃんがいるのとでは、考え方の深みがまったく変わる。