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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 5/18

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概要:
朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

昔のことを蒸し返されて、さすがの美智子も言葉に詰まった。本人さえ忘れていることを持ち出すのは、親の得意技である。「トモローくんは、どう思うの?」話を振られるまでもなく、トモローは自分の子供時代を思い出していた。トモローの母親は、まだトモローが物心つかないうちに家を出ていた。詳しい理由は知らないが、前に兄貴に聞いた話によると、よそに恋人を作って出て行ったのだそうだ。けれど、それが百パーセント真実か否か、トモローは判断できなかった。その話をする時の兄貴は吐き捨てるような口調になっていて、いささか冷静さに欠けている……と思えることがほとんどだったからだ。きっと兄貴にすれば、どんな理由があろうと幼い子供を残して姿をくらますような人間を、親だと認めたくないのだろう。年齢が上の分、母親の思い出も自分より多いだろうし、それゆえに執着も強いのかもしれない。しかしトモローは、母親に対するイメージが乏しいせいか、一概に母親だけを悪者にするのに抵抗を感じていた。はっきり言って、親父だってそんなに褒められた人間ではないのだ。晩年の親父は、調子が良くて笑顔の多い人だったけれど──若い時からそうだったかどうかは、わからない。ちゃらんぽらんな人だったし、けっこう無茶な武勇伝も、親類から何度も聞かされたことがある。それを考えに入れると、自分たちが知っている親父より、はるか