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NHK出版|WEBマガジン|主夫のトモロー page 9/18

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朱川湊人「主夫のトモロー」:家事や育児を通じて“主夫”トモローが直面する苦悩と出会いの毎日を描く、現代の「イクメン・婚活ブーム」に一石を投じる、痛快家族小説。

きっと悪気があってのことではないとは十分に知っているが、会社に戻る時が近づいてくるにつれ、美智子はときどき呟いていた。──この子を置いて……会社になんか行けるのかしら。──あー、チーコと離れたくない。ずっと一緒にいたい。考えようによっては、会社に戻ることを大前提にしているからこそ出てくる言葉ではあるが──それを耳にするたびに、トモローの心はざわめいた。もしかすると美智子も、お義母さんと同じように、実際のチーコと接して考えが変わったのかもしれない。会社も子供も自分の夢も総取りしようという気持ちが萎えて、チーコのために生きていくことを選びたくなっても、仕方のない話ではないかと思う。だからこそ──ここでもう一度、自分たちの道を確かめておくべきだと思った。いくら夫婦だろうが親子だろうが、話し合わなければ、分かり合うことなんかできっこないのだ。何も言わなくてもわかってくれる……なんていうのは都合のいい幻想で、そんなに察しがいい人ばかりなら、さぞや世界は平和だろう。むろんトモローには、小説家の夢をあきらめる気はない。いつか人の心を打つ作品を書きたいし、そうすると決めた以上、必ず実現させたいとも思う。だが幸い、小説家として世に出るための条件の中には、いわゆる年齢制限がない。たとえ何歳だろうと、いい作品が書けるかどうかにかかっている。もっと大きく考えれば、仮に職業として成立させられなくても(早い話、それで生活できなくも)、何歳になっても書くこ